悠々日誌

その時々で、考えている事などを書きます

映画「オリエント急行殺人事件」(2017)

原作を読んでいない僕が、amazonプライム100円レンタルを機会に観ました。

原作者はアガサ・クリスティ
最高傑作とされる「そして誰もいなくなった」と並んで、本作も傑作として愛されています。

 

有名な作品だけに、「結末さえも有名」なので、今さら「ネタバレ禁止!」という感じではないようです。
それでも、やっぱりネタバレを読みたくない人のために、ネタバレ記述の箇所は隠しておきますね。

 


【あらすじ】----------------------------------------------------------------------

名探偵エルキュール・ポアロは、次の依頼先へ向かうため、

イスタンブール発フランスのカレー行き鉄道「オリエント急行」に乗る。
乗員は職員、ポアロら乗客を合わせて16人。
各人に個室があり、食堂車も厨房もある寝台列車である。
旅を楽しむ一行であったが、ある夜、その中のラチェットという男が惨殺死体となって発見される。
この中に殺人者がいる……容疑者は、全員。

ポアロは、同乗していた鉄道会社の責任者である男から調査を依頼される。
「警察は信用できない。きっと人種差別からラテン系か黒人の乗客を犯人にしてしまうだろう。
正義の判断を下せるのは、あなたしかいない。どうか警察が来る前に『解決済み』にしてほしい。」と。

ポアロは自分が探偵であることを一行に明かし、一人ずつ取調べをして、推理をしていく。
しかし全員のアリバイはお互いの証言から確かで、犯人像が浮かんでこない。
今までのようにいかない名探偵ポアロは苦悩する。

灰皿で燃やされていた紙切れからかすかに読み取れた「アームストロング」この言葉が鍵となり、
「この殺人事件の被害者と、オリエント急行に乗り合わせた人々全てにアームストロング事件がからんでいる」
ここにたどり着いたとき、常識を覆す真犯人が浮かび上がってくる。


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僕の感想は、「やっぱり映画って凄いや」です。
映像と音楽での表現ってやっぱり、強いですよ。心が動かされるもの。

僕は漫画やイラストを描きますが、音楽が鳴らせませんから、
映画の表現にふれるたびに「すごい」と思います。

 

ミステリーなんですが、とくに今回のリメイク版映画は謎解きとしてのミステリーもさることながら
場面演出に重点を置いたのかなと感じました。アクションも気合い入ってるし。ポアロかっこいいし。


で、真相に関してはやっぱりネタバレなので……
見たくない人のために、ここから下にまとめておきます。

 


ここから下はネタバレです。
気をつけて下さい。

 

 

 

 

 【ネタバレ】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

犯人は「全員」

2年前に、痛ましい事件があった。
「アームストロング事件」
退役軍人アームストロング大佐の自宅から、幼い娘デイジーが誘拐された。
犯人はカセッティという男。カセッティは身代金を受け取っておきながらデイジーを殺し、遺体を捨てた。
妊娠中であったアームストロング大佐の妻はショックで早産となり、母子ともに死亡。
アームストロング大佐はポアロに調査を依頼する手紙を送るが、ポアロの元へ手紙が届いた時には、
アームストロング大佐は悲しみのあまり自殺した後だった。

 


オリエント急行の車内で殺されたラチェットこそ、あのカセッティだったのである。
オリエント急行の乗客たちはカセッティを殺すために集結し、乗り込んだ、いわば犯行グループだったのだ。
車内を見張っていたと証言した車掌すらも、その仲間であった。
グループのリーダーはアームストロング大佐の妻の母。彼女が復讐を計画し、皆に呼びかけて、メンバーを集めた。
ハードマン探偵がカセッティを探し出し、マックイーンとマスターマンが秘書としてカセッティに接近した。
ミシェル車掌が乗務する列車を、マックイーン秘書が予約した。
なにもかも、メンバーたちによってあらかじめ用意されていたのだ。


乗客たちの正体は、こうである。

 

  • リンダ・アーデン(リーダー)=アームストロング大佐の妻の母。デイジーの祖母にあたる
  • マックイーン秘書=アームストロング事件でメイドのスザンヌに濡れ衣を着せ、自殺に追い込んでしまった弁護士の息子
  • マスターマン秘書=アームストロング大佐を尊敬しており、退役後も懇意にしていた
  • ハードマン教授=無実のメイド、スザンヌの恋人。実は教授ではなく探偵
  • ピエール・ミシェル車掌=無実のメイド、スザンヌの兄
  • マルケス=アームストロング家の元運転手。アームストロング大佐の援助でビジネスに成功した恩がある
  • エストラバドス=事件当時のデイジーの乳母。誘拐を阻止できなかったことを後悔している
  • シュミット=当時のアームストロング家の料理人
  • ナタリア・ドラゴニロフ公爵婦人=リンダ・アーデンの友人で、デイジーの名付け親
  • アーバスノット医師=アームストロング大佐のおかげで、数少ない黒人枠を獲得し、医師となれた恩がある
  • ヘレナ伯爵婦人=アームストロング大佐の妻の妹
  • ヘレナの夫=妻の精神病の原因を少しでも取り除きたいと思い、犯行に協力
  • デブナム=当時、デイジーの家庭教師

(メンバーでない、ポアロと、鉄道会社の責任者、そしてラチェットを合わせると16人)


アームストロング大佐と親しかった、恩があった。
アームストロング一家を愛していた人たち。
事件で一生の悲しみを背負い、人生を狂わされた人たち。
皆が団結し、カセッティを地獄へ叩き落とすべく、オリエント急行に乗り込んだのだった。


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特に印象的だったのは、真相が明らかになる場面の演出です。
脱線した機関車を線路へ戻す作業のため、全員トンネル内で待ちますが、
トンネルの暗がりを背にした長テーブルに全員を横一列に着席させ(「最後の晩餐」と同じ構図)、
向かい合うようにポワロが立ち、自分の推理は2つの仮説がある、と語りだす。

 

1つめの仮説は、カセッティはマフィアに狙われていたことから、あらかじめ車内に潜んでいた
マフィアの暗殺者がカセッティを殺し、列車が事故で立ち往生しているすきに逃亡した、というもの。

2つめの仮説は……といって前述の真相を話します。

 


この時映像は回想シーンとなります。
集まった人達が皆そろって、アームストロング一家の幸せな姿を納めた8mm映画
(今で言うホームビデオ)を見て、悲しみと怒りを新たにし、復讐を誓い合うという場面です。
BGMが静かなピアノの音楽で……

ミステリーの解決シーンにつきものの、ワクワク感、爽快感ではなく、
悲しい、やるせない……そんな気分にさせられます。

 


ポアロは拳銃を差し出し、「真相を知るのは神と、このポアロだけだ」と言います。
「私を殺せば、あなた方は自由の身だ」と。

 

リーダーのリンダ・アーデンはポアロを殺さず、逆に自分が死んで全ての罪をかぶろうとします。
しかしポアロはそれさえも読んでいて、拳銃には弾が入っていませんでした。

 

「天秤は釣り合わなくてはならない。歪みを許さない」のが信条のポアロですが、
今回ばかりは「ここに悪人はいない、ただ心を癒すべき人たちだけだ」と、このまま去ることに決めます。


結局、警察はポアロの1つめの推理を受け入れて、犯人は単独の暗殺者で、逃亡済…となります。
ポアロは途中下車し、皆とはここでお別れ。
ポアロの言う通り、皆はこの殺人事件とは無関係に生きていく。
そしてポアロは……

 


男「すみません、ポアロという人を探しているんです」
ポアロ「彼は休暇中だよ」
男「そうですか、ポアロ様のお力を借りるため、エジプトのナイル川へお連れしたいのですが。殺人事件で」
ポアロ「……! 私がポアロです。すぐ行きます」


と、いかにも次回作を匂わせる形で、終わりです。